※これは映画「ニュー・シネマ・パラダイス」中の挿入話にヒントを得て書いたお話です
by Yumi (2019)
お話はこちらから → 椅子から去った王子
謎への答え
映画『ニュー・シネマ・パラダイス』は1988年に作られたイタリア映画です。
監督はジュゼッペ・トルナトーレ。
エンニオ・モリコーネの哀愁たっぷりの音楽でも知られるこの映画は1989年のカンヌ国際映画祭審査員グランプリやアカデミー外国語映画賞、ゴールデングローブ賞などを獲得しました。
物語はシチリアの架空の村ジャンカルドで映画好きの少年トトと古い映画館を守る映写技師アルフレードとの交流を軸に展開します。
私はTVで数回この映画を見ていますが、見る度に新しい発見があり、作りの巧みさに驚かされます。
その挿入話―美しい王女を手に入れるために100日間椅子に座り通す試練に挑戦した王子が99日目に去ってしまう話―があまりにも奇妙なので心にひっかかってしまい、長年あれこれ思いを巡らしているうちに、とうとう物語を一つ作ってしまった…、と、これは「椅子から去った王子」のプロローグでお話した通りです。
が、実は、この映画にはもう一カ所、私には「訳が分からん!」ところがあったのです。
それを語るにはちょっとだけ寄り道して、映画の内容に触れる必要があります。
青年期を迎えたトトは恋をしますが大人達の無理解により恋人との仲を割かれます。
やむなく駆け落ちを決意した二人ですが、恋人はトトとの約束の時間に現れませんでした。
以来、トト(本名はサルヴァトーレ)は女性と真剣な恋愛関係を築けなくなり、シチリアを去った後映画監督として高い名声を得ても、ローマで孤独のまま老いを迎えています。
そんなサルヴァトーレのもとに映写技師アルフレードが亡くなった知らせが届きます。
村の映画館が取り壊されることもあり、数十年ぶりに帰省したサルヴァトーレは、偶然、かつて駆け落ちの約束をした恋人が自分に「遅れるが待っていてほしい」と伝言を残していた事実を知ります。
裏切りは無かったのです。
とはいえ、彼女にはすでに家庭があり、もう過去を取り返すことはできません。
甘く切ない思いを抱えて村を去る際、サルヴァトーレはアルフレードの妻から自分への形見として、一本のフィルムを渡されます。
サルヴァトーレがローマに帰りそれを映写してみると、何とも奇妙なフィルムでした。
全編キス、キス、キス…、ラブシーンばかりなのです!
これには訳がありました。
かつて村の映画館を仕切っていたのは教会の司祭でした。
村で唯一の娯楽である映画を村の人びとがこぞって見に来るのですが、司祭は映写前に内容を検閲して、「不道徳で不埒」と判断した箇所をアルフレードに切り取らせていたのです。
数々の白黒名画が人びとの前で上映されますが、恋人同士がうっとり顔を寄せた次の瞬間、バチッとフィルムは飛んでしまいます。
村人たちがブーイングの嵐と化すのは当然でした。
さて、切り取られたラブシーンはどこへ行ったのか?
ゴミ箱ではありませんでした。
何と、アルフレードはこれらのラブシーンをつなぎ合わせて、一本のフィルムを作っていたのです。
そして、昔仲良しだったトト少年―長じては有名映画監督となったサルヴァトーレ氏への贈り物にした。
あふれるようなキスシーンはどうにも気恥ずかしくて、「いったい、これ、何の意味?」とかつて私は怪訝に思うばかりでした。
その意味を悟ったのはつい何年か前、最後にこの映画を見た時でした。
多分…、いや、きっと、アルフレードはサルヴァトーレに「愛は決して計算できるものではない。それは無償のものであり、情熱であり、どんな価値基準にも縛られるべきじゃない、いや、縛ることなどできないのだ」と伝えたかったのだと思います。
裏切られたとずっと誤解してきた恋人が実は誠実であったと知ったサルヴァトーレがこてこてのラブシーンに恍惚として見入るシーンでこの映画は終わります。
私の中でも、きわめて遅ればせながら、このアルフレードのフィルムと「99日目に椅子から去った王子」の謎とがやっと繋がりました。
愛に「道徳」の物差しを当てる司祭や、それを椅子に座る「日数」で計ろうとする王女をアルフレードは偽物として嫌い、切り取られ捨てられようとした無垢で無償の愛を救い続けていたのです。
何のことはない、ジュゼッペ・トルナトーレ監督は最初から答えをそこに置いていた…。
「わざわざお話なんか作らなくてもよかったなあ…」と自分の鈍臭さを恨めしくも思いますが、「まあ、物語を1つ作っちゃったんだから儲けものかな?」とも思うのです(笑)
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