※これは映画「ニュー・シネマ・パラダイス」中の挿入話にヒントを得て書いたお話です
by Yumi (2019)
前回までのお話はこちらから → 椅子から去った王子
あらすじ
ある国にとても美しい王女がいて、窓の下の椅子に100日間すわることが出来た者と結婚すると言いました。たくさんの王子が挑戦し、失敗。最後の挑戦者ワタリガラスの王子は99日間頑張ったのに、どうしてか、椅子からさってしまいました。
6
北の国王が語ったこと
それから、1年ほどたったある日、お城にワタリガラスの王子が再びやって来ました。
「なんじゃと!」
これを聞いた王様が怒ったの何のって!
「今さら、何の用じゃ! さっさと追い返せ!」
けれども、すぐ思い返して、こう言いました。
「いや、待て。ここへ通せ。やつの言い分を聞いてやろう。場合によってはわしのこの手で首をはねてやろうぞ!」
というわけで、久しぶりにワタリガラスの王子が王様の前に立ちました。
その時、王子が来たことを聞きつけて、奥から王女も出て来ました。
王様は、
「おまえはよいのじゃ。奥にいなさい」
と王女に言いましたが、王女は首をふり、その場にいすわりました。
99日間、暑さ寒さの中を座り通した王子の顔には一生消えることのないみにくいあざができていました。
けれども、それはかえって王子を以前より気高く見せていました。
がみがみ叱りつけてやろうと思っていた王様も、ワタリガラスの王子の堂々とした様子に、つい気後れしてしまいました。
王様はそんな心の内を見せまいと、ことさらいばった声で言いました。
「えへん、今さら、何の用だ。あやまろうとでも言うのか? だが、お前がわしたちにしたむごい仕打ちは、どんなにあやまったとて許されはせぬぞ」
「いえ、あやまりに来たのではありません」
と、王子はすずしい顔で言いました。
「私は、どうして私があの椅子にすわろうと思ったのか、そしてまた、せっかく99日間もがまんしたのに、どうしてそこから去ったのかを話しに来たのです。
きっとあなた方がとても知りたいだろうと思ったので」
王様がそれに答える前に、
「ええ、ぜひ、お聞かせください」
と、王女が言いました。
みなは驚いて王女の方を見ました。そんなことは今まで一度も無かったことだったのです。
王女の目はきらきら輝いて、熱心に若者の顔に注がれています。
「ふしぎだねえ。いつもお人形のように父君の言いなりだった王女様が、初めて人間らしい口をきいたよ」
お城に仕える者たちはこそこそささやき合いました。
「では、お話しいたしましょう」
と、王子は王女に向かってにっこりし、話し始めました。
「私はここからはるかな北の国の王子です。いえ、王子でした。というのも、先ごろ病気で伏せっていた父王が亡くなり、私が王位を継いだからです」
ワタリガラスの王子が今は国王だと聞いて、王様はびくっと顔をしかめました。
(しまったぞ。もう少していねいな物言いをすればよかったな。戦争をしかけるつもりではあるまいな…)
北の国王は続けます。
「父が病気になった原因はとりわけかわいがっていた弟王子の死でした。
弟は明るく、心優しく、美しい少年で、だれからも愛されていました。何よりも白鳥を好み、いつも白鳥の羽をぼうしにさしていたものです」
この話にみなははっとしました。白鳥の羽をぼうしにさした王子と言えば、かつてあの椅子に70日間すわり続けて、死んでしまった若者のことではないでしょうか。
北の国王は言います。
「弟が美しい王女を妻にと望んだため命を失ったと家来たちから聞き、私はとても腹が立ちました。
でも、同時に、それほどまでに弟が恋した王女とはどんな人なのだろうと、興味もわきました。
それで、自分の目で確かめようと、1年前このお城を訪れたのです」
お城にやってきたワタリガラスの王子は、王女の美しさを見て、「なるほど、弟が命がけになったのも無理はない」と思いました。
思いがけず、王子もまた、王女に恋をしたのです。
「私自身も王女様を妻にしたいと心から願うようになったからこそ、けんめいに辛抱したのです」
30日…、50日…、70日…。
王子は辛くてたまりませんでした。
たった一つの心の支えは見上げる窓に時々映る王女のかげでした。
「私は必死で願いました、王女様が一言、『もう、おやめください』と言ってくれたら、
家来に、たった一言、『あの方をむかえにお行きなさい』と命じてくれたらと。
けれども、私の祈りが王女様のお心に届くことはなく、奇跡は起こりませんでした」
王女が赤くなってうつむいたことにだれも気づきませんでした。
「80日目に母が来て、私に帰るよう、泣いてせがみました。
『こんなに苦しんでいるお前を見捨てておくような心の冷たい女を妻にしたこところで、幸せにはなれませんよ』と」
北の国王がその後に語ったのは本当に驚くべき事でした。
「実は、私の恋心など、それまでにとっくに消えて無くなっていました。
だが、すぐに国に帰りたくもなかった。
私は悔しくてならなかったのです。
あなた方は私をむごいと言う。
だが、こんなバカげた仕方で、弟や、他の若い人たちの命をもてあそんだあなた方の方がよほどむごいのではありませんか?
王女様への気持ちが冷めた後、私がどうして99日目まで椅子にしがみついていられたか、お分かりになりませんか?
私は、ただただ、あなた方にしっぺ返しがしたかったのですよ」
北の国王の言葉は鋭い剣のように人びとの心を刺し貫いたのでした。
エピローグに代えて、二つの結末
こんなことがあってから、見かけはきれいでも心の冷たい王女に結婚を申しこむ者は一人もいなくなり、王女は一生部屋に閉じこもって、一人さみしく暮らしましたとさ。
でも、一方にはこんな結末もあり得ます。
北の国王をどうしても許せなかった王様は戦争をしかけようとしましたが、王女はそれを強く止めました。
それから間もなく、王女は一人でお城をぬけ出し、北の国王を訪ねました。
それまで父親の言いなりに多くの若者を苦しめたあげく、白鳥の王子を死に追いやったことを心からあやまるために。
二人はとても長い間話をしていましたが、いつしか本当に愛し合うようになり、やがて結婚して、いつまでも仲良く暮らしたということです。
さて、あなたはどちらの結末がお好みですか?
次回考察へつづく
※これは2019年に絵本・童話の創作Online「新作の嵐」」に掲載されたものを若干修正したものです。
「新作の嵐」へはこちらから→https://shinsakunoarashi.com/%e3%81%84%e3%81%99%e3%81%8b%e3%82%89%e5%8e%bb%e3%81%a3%e3%81%9f%e7%8e%8b%e5%ad%901-7/
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